『異世界からの帰還』第一章

目覚めると、そこは…


「愛莉! 愛莉!」

 名前を呼ばれて、意識が戻り、ぼんやりと目を開ける愛莉…

 白い天井が眩しく目に飛び込んだ。

 続いて心配そうに覗く数人の瞳。

(ここはどこ? 病院?)

「気がついてよかったー」

 声からして母の様である。

 けれど顔が少し違う。そう感じる愛莉であった。

 後の数人は見たこともない者ばかりであった。

 

 状況が読めないでいると、廻診なのか白衣を着た医者がやって来た。

「おおー意識が戻りましたね」

「はい、おかげさまで」

 そう言って、母らしき者が医者にお辞儀をした。


「どうですか? 頭痛や吐き気は無いですか?」

 医者は愛莉を見て、そう訊いた。

「はい、でも何か思いだせないというか、ぼんやりします」

「そうですか。ま、それも時間の経過と共に戻ってくると思いますよ」

「私のことはわかるよね?」

 母らしき者が愛莉に訊いた。

「それが、声は母だと思うけれど、顔がなんだか違って見える」

「ええ! そんな…」

 驚く母らしき者。


「今晩はゆっくりと眠ってください」

 そう言って医者は立ち去って行った。

 何故だか母らしき者が、後を追いかけて、廊下で医者と何やら話している。

 

 身を起こそうとしたら、見知らぬ者の一人が愛莉のその行動を制止させた。

「彼方たちは誰?」

 そう訊いても、無表情に近い笑みを浮かべるだけであった。

 母らしき者が戻ってきた。

 愛莉は訊いてみる。


「ねえ、この男の人たちは誰なの?」

「え? 誰もいないわよ。 この部屋には愛莉と私だけだよ」

「ウソ! 三人いるわよ」

 そう言って愛莉は男のひとりの手首を掴んだ。

 しかし、感触が無い。

(一体どういうことなの?)

「ね、わたし、いったいどうしたの?」

「本当に何も覚えていないの?」

 母らしき者はそう言った。

「自分が愛莉ということだけしか思いだせない」

「モールの階段から転げ落ちたのよ。全身と頭を打っているみたい。骨折は免れているそうよ」

 そこまで言われても、自分のこととは思えない愛莉であった。

 そして、母らしき者の一瞬浮かべた笑みが気になっていた。

(何かおかしい… この女性は母ではないと感じていた)

 

 ベッドから起き上がろうとすると、またあの男たちが制止させようとした。

 けれども愛莉は強引に起き上ってみる。

 母らしき者は、驚いた様子で

「まだ無理しては駄目よ!」と言った。

「大丈夫よ。それにお手洗いに行きたいから」

 そう言って愛莉はベットからも下りた。

「うっ! 痛い!」

 下腹部に強い痛みが走る!

(何で!?)

「ほらぁ、だから言ったでしょ。無理しては駄目って」

 

「お手洗いまで肩を貸してくれる?」

 愛莉は母らしき者の肩に手を掛けた。

 体つきが、やはり母ではないと確信する。

 

 お手洗いで、自分の体のあちらこちらを調べた。

 階段から転げ落ちたというが、青アザすらない。

 気になる下腹部も見たところ、傷らしきものはなかったが

 血管が浮いた感じの2センチほどの青い筋のようなものがあった。

 押さえてみたり、屈伸をしてみたりしたが、さっきのような痛みはもう起きなかった。

 

 お手洗いが済み廊下に出ると、母らしき者の姿は消えていた。

 痛みもほぼ消えいているので、壁伝いに部屋に戻ることにした。

 途中何気に辺りを見渡すと、白い壁面ばかりで窓もない事に気が付く。

(おかしい…こんな造りの建物って…)

 違和感を感じながらも、とりあえず部屋を目指して愛莉は歩く。

 部屋に辿り着くと誰も居なかった。

 

 愛莉は自分の持ち物を探す。

 ベッド傍のサイドテーブルや棚には何もない…

 ナースコールのスイッチもないし、

 やはりここは病院ではないと感じる愛莉だった。

 窓もなく外の状態、そして時間、日にち、季節すらわからない。

 急に途轍もない不安が襲う。

 医者が「今晩はゆっくりと眠ってください」と言っていたが

 果たして本当に今が夜なのか…

 それにしても、あの母らしき者や、三人の男たちはどこに消えたのか?

 愛莉は、寒いし、眠気もあって、とりあえずベッドに入った。

 眠りの中で記憶が甦って来る…









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